鳥かごとカナリア・小説版
本編+おまけのSSです。
ゲーム版をプレイしてからの閲覧をお勧めします。
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鳥かごの中でぼくは空を見つめている。
そのとき、羽音とともに黒い影が上空を覆った。
いったいなんだ。
「いつまでそうしているつもりだ、カナリア」
知らない瞳がぼくを見下ろしていた。
それは鳥かごの破れ目に無理やり頭を通し、こちらを覗きこんでいる。
水に映った自分の姿は知っていた。だから、目の前の生き物はぼくと同じ鳥だとわかった。
だが、実は自分以外の鳥を見るのは生まれて初めてだった。翼があるところもくちばしがあるところも、ぼくに少し似ている。
ぼくと違うのは羽根が真っ黒で、おまけにとても大きいことだ。
見知らぬ鳥は笑った。
「その鳥かごからもうエサは出てこないのに。扉は開いてるよ」
外に出るなんて思いつきもしなかった。ぼくは扉の方をおそるおそる見た。
いつもしっかりと鍵のかかっていた扉は半開きになり、ぶらりと垂れ下がっている。
「そう、そこから出ておいで」
その声がなぜか恐ろしく響いて、ぼくはびくりと足を止めた。
いや、やっぱりよそう。
外はなんだか怖い。
「まだここで待ってみる。いつか飼い主が帰ってくるさ、きっと」
「何も知らないで。君も外に出ればわかるだろう」
「遠慮します」
「ふん。愚かな」
冷たい眼差しを残して、彼は飛んで行った。
変なやつだ!
壊れた鳥かごの中で、ぼくは羽根にくちばしを突っ込んで眠る。ここは素敵だ。
大きな手がやってきて、ごはんをエサ入れに入れてくれる夢を見る。
次の日は朝から雨だった。
建物の屋根がほとんどなくなってしまったせいで、雨粒がかごの中に降りこんでくる。
羽根を膨らませ、震えながらやり過ごす。
空腹だ。
人間を見なくなって、どのぐらい経ったっけ。ぼくは悲しい気持ちになった。
今日も飼い主は帰ってこなかった。
その翌日はよく晴れていた。
残った屋根が水を吸ってもろくなり、雨の代わりにぱらぱら落ちてくる。
もうダメだ。空腹で目が回る。
少しでもおなかの足しにしたくて、水入れに溜まった雨水を飲む。
エサ入れは相変わらず空っぽのままだ。
あのおじさんは正しかったのかもしれないな、とぼくは思った。 残念だが、夢ではおなかはいっぱいにならない。
幸い、あの怖そうな真っ黒おじさんは近くにいない。
――外に出てみよう。ぼくはようやく決心した。
何かあったら、すぐに戻ればいいだけだ。
(怖気づくな、行く、ぞ…… )
何度か翼を広げて予行演習してから、ぼくは止まり木を思い切り蹴った。
「うおおおお!」
ひえ、思ってたより高いぞ、ここ!
地面がはるか下の方に見える。頭がくらくらした。
それだけならまだしも、だ。鳥かごの中でばたつく以外に翼を使ったことがないせいか。それともおなかが空きすぎているからか、思うように飛べない。羽ばたいても羽ばたいても身体が下がっていく。
仕方がない。ぼくは近くの道端に着地した。というより、ほとんど落っこちていたかもしれない。
助かった。身体がばらばらになっていないのを確かめると、ぼくはあたりを見回した。
「あっ」
知らない果物が土の上に落ちていた。いちごに似ているが紫色の実もある。
なんておいしそうなんだろう。
大喜びでついばんだ。いちごみたいな味がしたらいいな。
……残念。酸っぱくて、たいして甘くはなかった。それでもおなかが減りすぎていたせいか、けっこうおいしかった。
まだ実は残っているが、満腹になった。あとは明日食べればいい。遅くなる前にもう戻ろう。
そう考えていたとき、地面が揺れた。
なんだ? ぼくはあわててあたりを見回した。
そして動けなくなった。
「あ……あ……」
建物がぺしゃんこになっていた。
大事な大事な鳥かごは、あの中だ。
「外に出ちゃったせいだ……こんなことになるなんて……」
ぼくはパニックになってがれきの山を飛び回り、あちこちをつついた。
「ない、ない」
しばらく探し回ったが、鳥かごは見つからなかった。
どうしよう。帰る場所がなくなってしまった。
思い出も、安心できる寝床も、待っていればごはんが出てくる魔法のエサ入れも。
いつか飼い主が戻ってくるかもしれないという、希望も。
ぼくはふらふらとその場をあとにした。
果物の成る木が生えていた場所に戻った。枝に止まってぼんやりと空を眺める。
これからどうしたらいいんだろう。食べ物はたくさんあるけど、ほかのものは全部なくなっちゃった。
そのとき、背後から羽音がした。そこには黒いおじさんがいた。
「この桑の木はあの建物の陰になっていて、奇跡的に焼けなかったようだな。ようこそ、楽園へ」
「楽園なものか。鳥かごがなくなっちゃったんだぞ」
ぼくは顔を背けて言った。
ぼくにとっての楽園はあの鳥かごだけだったのに。
「ふん、そんなにあれが大事だったか。なら」
黒い鳥はにやりと笑った。
「私が救済をあげようか 」
「救済……?」
「喪失の苦しみから君を解放してやろうかと言っているんだ。私の糧となるかね、カナリア」
ぼくを食う気なのだと、ようやくわかった。
「一昨日ぼくの鳥かごを冷やかしに来たのも、ぼくを食べようと思ってたわけか」
「ご名答。さっきがれきの山で君が嘆いているところを見た。こんなことになるなら鳥かごを離れなければよかったとね」
見られていたのか。取り乱していたせいか、まったく気配に気づかなかった。
「私も喪失の痛みは知っているつもりだ。命が捨てたいのなら私の腹に入るがいい。私のために死んだなら、君にもこの世に生まれた意味ができるというもの」
ぼくは迷った。
「ぼくはそれでほんとに楽になれるのか?」
「それは保証できない。何せ死んだことはないのでね。苦しむ時間はなるべく短くしてあげよう」
「ちゃんと教えてくれるんだ」
「だまし討ちはしない。私は人間ではないからな。まあ、急いで決めなくてもいい」
おじさんはこちらに背中を向けた。
「幸い今は腹が減っていない。近場に素晴らしいえさ場を見つけたからな。 そもそも空腹だったらとっくに君を襲っている。 今君を食うのはよそう。えさ場に何かあったときのための、非常用の食糧だ」
ばさばさと派手な音を立て、おじさんは飛び立った。
「……。じゃあ、何しに来たんだよ」
ぼくは小さくなっていくおじさんの背中を見送った。
ひとまず今夜はここで寝よう、と考える。この木は葉が大きいし、雨が降っても多少ならしのげそうだ。
そこから数日は桑の実を食べて過ごした。
まだまだたくさんある、大丈夫だ。
だんだん減っていく桑の実を見ながら、自分に言い聞かせる。
だが、ついにある朝。
「……」
ぼくは悲しく下を見た。
桑の実はほとんど腐ってしまって、べちゃりと土の上に広がっている。
まだ食べられる実や種を探して、ぼくは地面をついばんだ。
これもなくなったらどうなってしまうんだろう。少し怖くなる。そろそろほかのえさ場を探さないといけない。
「よし、行こう」
翼は前より強くなった気がする。今なら冒険できそうだ。
「わあ、広いな」
初めて見る世界はなんだかこげ茶色をしていた。
地面はあちこちが穴だらけだ。建物はほとんど崩れている。飼い主がトーストを焦がしたときに似た、だがもっと不快なにおいがする。
「飼い主はいないな……」
というより、人間がいない。
とにかく、食べ物、食べ物。 探してはいるのだが、木々もほとんどが真っ黒で、春なのに葉が一枚もない。
ほうぼうを見て回っているうちに、ぼくは疲れてきた。頼みの桑の木からも、ずいぶん離れてしまった。
休むか。ぼくは目についたでっぱりに止まろうとした。
「こら、そこに止まるな!」
爪がそれをかすめる寸前、どこからか鋭い声が飛んで来た。
「えっ?」
ぼくはつい方向転換して、誰かの言う通りに別の場所へ降りた。
声の主は後ろからぬっと現れた。
「なんだ、おじさんか。いったいなんだ」
悪いおじさんだ、小鳥を脅かして。
「お前は色が派手だからどこにいても目立つな。それにまったく危なっかしい。お前の止まろうとしていたそれは不発弾だ」
「不発弾……? これのことか?」
人間と暮らしていたから人間の持ち物には詳しいはずだが、これは初めて見る。金属でできた、種に似た細長いかたちの何かが地面に突き刺さっている。
「それは揺らすと爆発する。この前、石を落として実験済みだ」
ひえ、とぼくは思った。危ないところだった。
「この町はどこもかしこも黒焦げだろう。こいつが雨のように降ってきたせいだ」
こんなにひんやりして見えるものが、黒焦げの原因だなんて。ぼくは信じられない気持ちで危険物を眺めた。
「……助けてくれたのか?」
「非常用の食糧が勝手に木っ端みじんになられても困る。それに、私も巻き込まれそうだったしな」
おじさんはふん、と鼻を鳴らした。
案外いいひとだったりして。
「ありがとう」
おじさんはふたたび鼻を鳴らした。
「ねえおじさん、どこかに小鳥向きのえさ場はある? あの桑の木、実が減ってきちゃってさ」
「なぜ私が教える必要がある」
「非常用の食糧は太ってた方がうまいだろ?」
おじさんはため息をついた。
「……河口にごみ処理場がある。あそこは黒焦げにはなっていない。雑草や実の成る木もある」
「いっしょに……」
「断る。何が悲しくて食料のお守りをしないといけない。私は行く」
「待って、河口ってどこだ?」
「川を下って行った先に決まっている」
「川……って……」
おじさんはふたたび、深い深いため息をついた。
「どうせ帰り道だ。……ついてこい。その方が早い」
おじさんはさっさと飛び立った。やっぱりいいひとなのかもしれない。
ぼくはあわてて後を追った。
おじさんの大きな影とぼくの影が、焦土を滑っていく。
「この町、人間がいないのはどうして? 」
「人間はあんなに威張っていたが、本当は私たちより弱い。だから死んだのさ」
「……ぼくの飼い主も? 」
「失ったもののことをいつまでも考えるな。私も母のことは忘れるように努めている」
抑揚のない声でおじさんは言った。
「おじさんのお母さんも、死んじゃったんだ 」
「ああ。人間に殺された。嫌われ者のカラスだからな、毒を盛られたんだ」
「だからおじさんにとってはここが楽園なんだな。人間が嫌いだから」
「そうだ」
「でもぼくは飼い主が好きだったよ。ごはんをくれるひとだった。おやつの果物も。……やっぱりもう会えないんだ、そっか 」
そんな気はした。だがそのことについては考えないようにしていた。
こみあげる痛みを飲み込んで、翼を動かす。
ぼくの隣を滑空しながら、おじさんはしばらく黙っていた。
「ついたぞ。ここがゴミ処分場の埋め立て地だ」
ゴミ処分場というからてっきり汚い場所なのかと思っていた。ぼくは目を丸くした。
「この大きな水が河口?」
「もうここは海だろうな」
ぼくは初めて海を見た。
鳥かごにあった水浴び場より何億倍も大きな水たまりだ。
夕日を浴びてきらめきながら、水はざあ、ざあ、と静かに揺れ動いている。実のなった木々がオレンジ色の光を透かした。
「楽園……たしかにそうだ。でも飼い主は……」
ぼくはしばらく海を見つめた。
それからカナリアの言葉で歌った。
『鳥かごはもうないけれど
会いに来て どこかにいるんでしょう
だって世界はこんなに広いのだから』
「人間などのために、そんな悲しい歌を歌うのはよせ。楽園なのだ、ここは」
おじさんは少し苛立った様子だ。
「ひとりで楽園にいたって、ぼくは楽しくない。 おじさんは楽しい?」
「……君と話すまで、そんな愚問を思いついたことはなかった」
おじさんはぼんやりと海を見つめている。
「君を食ってしまったら、私はまたひとりになるな」
「そうだな」
「どうせ自然界で長く生きる力はないだろう。食ってやるのが君のためだ。そうはじめは思っていた。だが、がれきの山で嘆く君を見たときから、本当は君を食う気が失せていたのかもしれない」
「ぼくも死ぬんだ」
「色の目立つ奴はみなそうだ。白い鳩、白蛇、そういう連中は私たち捕食者にとって、格好の標的になる。野生育ちでも生き残るのは難しい。お前もひとりなら、長くはないだろう」
「そう」
「獲物に対して、感傷的になるのは変かもしれない。だが…… 」
おじさんは俯いた。
「なぜだろうな。今の私は、君が死ぬのを悲しいと思う」
海の上で最後の光がはじけて、夕日が沈んだ。
「私が代わりに面倒を見よう。だから人間は忘れなさい。この楽園には人間も、悲しい歌もふさわしくはないのだから」
なんて答えればいいだろう。ぼくは少し考えた。
「お母さんを思い出しちゃうからか。苦しくなるから…… 」
「そうだ 」
固い表情をしておじさんは答えた。
「でも、誰かが思い出してあげなくちゃ」
ぼくはそっとつぶやいた。
「飼い主のことも、お母さんのことも。食われることがぼくの救済になると思ったのは、ぼくが死んじゃったあとも、おじさんがぼくを覚えていてくれるからでしょ?」
「それはそうかもしれない。だが……酷なことを言う奴だ」
おじさんはため息をついた。
「それにさ、歌が悲しいのは直せないよ」
ぼくは俯いた。
「おじさんがつらいなら、なるべく歌わないようにするけど…… だって、これは涙みたいなものだから」
「涙?」
「人間は悲しいとき、目から雫をこぼすんだよ。うんと頑張らないと止められないんだ。ぼくの歌も、おんなじだ」
「人間にも、そんなときがあるのか」
おじさんは何か考え込んでいる。
「ねえ、おじさん。悲しいまま、いっしょにいるのはダメ? あなたとぼくがおたがいに必要なのは、ここが楽園だからじゃない。あなたもぼくも悲しいからだ」
おじさんはしばらくぼくを見つめ、ふっと笑った。
「悲しい楽園か。それも悪くないな」
黒い風切り羽根が広がった。
「おいで、カナリア。君は夜空を知らないだろう。私が教えてやる。それでも少しはその痛みがやわらぐように。それから私の巣に来なさい。雨の当たらない、よい場所だ」
おじさんに見守られながら、初めて夜空を渡った。星を縫い、月を横切り、真っ黒に揺れる海を見下ろす。
疲れると、巣の中でぼくらは折り重なって眠った。おじさんの羽根は少し硬かったが、あの鳥かごみたいに優しかった。
おじさんとの暮らしは穏やかで静かだった。食べ物には困らないし、ほかの動物もおじさんを恐れて近寄ってこない。ふたりだけの楽園だった。
おじさんは強いから、誰かに襲われる心配はない。だがもしかしたら強いせいで、余計に孤独だったのかもしれない。よその鳥たちが怖気づいた様子でこちらをうかがっているのを見かけるたび、ぼくは考える。
ある日、街中のエサ場から帰ってきたおじさんはひどく苛立っていた。
「人間が生きていた。この町唯一の生き残りだろうな」
おじさんは吐き捨てるように言った。
「誰だったと思う」
「ぼくの飼い主……?」
小さな希望とともにぼくは尋ねた。生きていてくれたらどんなにいいだろう。
「そうだったら、君は人間のもとに戻るのか」
おじさんはさらに苛立った様子だった。
ぼくは少し考えて、それから首を横に振った。
「いや、きっと戻らない」
おじさんをひとりぼっちに戻したくはなかった。
「ただ、元気にしている姿が見たい。ぼくが元気だと教えてあげたい。家に戻ったとき、ぼくがいないのを見たらきっと飼い主は泣いてしまうから」
「そうか」
ひりついた空気が少し緩んだ気がした。
「君は愛されていたんだな」
「うん」
「君は人間に飼われている方が幸福だ。そうわかっているのに、私は君を人間などに返したくない。すまない」
「謝らないでよ。ぼく、幸せだし」
悲しい歌を歌う間隔が、おじさんのおかげで少しずつ遠くなっていた。
「それはよかった」
おじさんは微笑んだ。
「話を戻そう。残念だが、そもそも私は君の飼い主を知らない。だから見かけても教えてはやれないな」
「そっか、そうだった」
ぼくはがっかりした。
「じゃあ、誰が生きてたの」
おじさんは一瞬黙った。
「母を殺した男だ。アパートの管理人」
ぼくは息を飲んだ。
「あの日のことは忘れられない。巣に戻った母はひどく具合が悪そうだった。母はいきなり私たちひなを巣から蹴落とした。あんなに優しかったのにどうしたのか、気が触れたのかと驚いた。
『出て行きな、もう二度と戻ってくるんじゃない。それから、上等な鶏肉が置いてあったらけっして食べてはいけないよ』
地面に落ちた私たちに向かって、そう母は呻いた。私たちは怯えて、まだ弱い翼で逃げ出した。兄弟たちとはそこで生き別れたから、どうなったかは知らない。
戻ってくるなと厳命されてはいたが、翌朝私はこっそりと隣の屋根に上がった。巣のあった中庭が見える場所だった。
ちょうど管理人が母の亡骸をビニール袋に入れているのが見えた。枝切りばさみも、ばらばらに壊された巣も。管理人は淡々と袋の口を縛ると、建物の中へ入って行った。幼い私はただショックを受けていた。ことの全体像が理解できたのは私が大人になってからだった。
管理人が母を食っていたら、こんなに人間を憎むことはなかった。生きるためなら仕方がない。私も同じ穴の狢だからな。だがあの男は違った。
庭木を剪定するのと同じ無感情さで、奴は母を殺したのだ。
今日の管理人は別人のようにやつれていた。私を見るなり、あのときのカラスかと彼は力なく笑った。俺を連れて行くつもりなんだろう、と」
「あなたのことをお母さんと見間違えたんだね」
ぼくはそっとつぶやいた。
「お前には悪いことをした、仕事だったんだと、よくわからないことも言っていたな」
「仕事っていうのはね、誰かのために望まないことをしなくちゃいけないことを言うみたいだよ。ぼくの飼い主もよく仕事に行きたくないって言ってたっけ」
ぼくは懐かしく飼い主を思い出した。
「母を殺したのが、彼の望みではなかったと」
おじさんは困惑している。
「ならば私は誰を憎めばいい。彼は誰のために母を殺したというんだ」
「その管理人さんのことはどうしたの」
おじさんは鼻で笑った。
「どうもしない。今も同じ場所で倒れているだろうさ」
「このままだと死んじゃうね」
「だから?」
「そこから先はおじさんが決めて」
「君は……また人間の味方を……」
おじさんは苦々しく言った。
「そうじゃないってこと、おじさんだってわかってるでしょ。おじさんは賢いから」
おじさんは舌打ちをすると、街に向かって飛び立った。
夕方、おじさんは戻ってきた。
「川で魚を狩って、奴の足元に投げてやった。これでいいんだろう」
「それはぼくのため?」
おじさんは暗く笑った。
「そういうことにさせてくれ。長年の信念を曲げるには、仕事だったことにした方がいい」
「仕事って便利な言葉だね」
ぼくは笑った。
「君が私のそばにいるのは、仕事か?」
「違うよ。ぼくがいちばん幸せなように選んだだけ」
夕方の風は優しかった。

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